家中の電気を消して、布団にもぐりこむ。
今、この家の中で光っているのは、私のスマホだけだ。
いや、家の四隅に岩塩ランプがあるから、真っ暗というわけではないが、これらのランプは、せいぜい半径50cm程度、足元を照らすのが精一杯なので、ほぼ暗闇である。
暗くなると、ヤツが動き出す。
漆黒の中を歩く音。だいたいどの位置にいるかもわかるぐらいに明瞭に聞こえる。
そして、得体の知れない音。
紙がちぎれるような音の時もあれば、何かが引きずられるような音の場合もあるし、何かが擦れるような音が断続的に聞こえてくることもある。
時折、冷蔵庫の製氷機が氷を落とすので、その音が人一倍大きく響くと、その後の静寂は、より無音に聞こえる。
そして、しばらくすると、何かしらの音が、再び聞こえ始める。
私は、布団の中で考える。
確かめに行くかどうか、を。
音が聞こえ始めると、同時に言いようもない眠気にも襲われ、けだるさが全身を支配する。
このけだるさが私の決意を妨げるが、これも、何かしらの影響なのだろうか。
しかし、ここで負けてしまっては、屈したことになる。気兼ねのない未来のためにも、ここは何とか気力をふりしぼり、布団を出なければならないだろう。
そっと布団を出ると、自然と忍び足になるのは、やはり少しでも「ヤツ」に驚きとか、それによる恐怖を与えたいがための、無意識の行動なのかもしれない。
足音が途絶えた部屋の入り口までたどり着くと、私は少し立ち止まり、中の気配を感じようとする。
感じた瞬間に、踏み込んでやる。
数秒そうしていると、部屋の中で、何かが倒れたような音がした。
私は、一歩を大きく踏み出すと同時に壁のスイッチを叩き、部屋が明るくなるよりも前に、声を荒げる。
くぉら虎鉄!
姿は見えなかったものの、ヤツは鈴の音をリンリンと響かせながら、部屋から出ていった音がした。
これが、私の夜のルーティンである。