バス停に向かう間に、信号がひとつある。
交差点ではなく、横断歩道のための、押しボタン式の小さな信号だ。
おばあちゃんが、信号が変わるのを待っている。
少し時間があったので、私もゆっくり歩いて信号に向かっていたのだが、私がたどり着くまでに信号が変わることはなく、並んで待つことになった。
歩きながら、多分そうなんじゃないのかな~と思っていたのだが、並んでみたら、案の定、押しボタンを押していなかった(今はボタン以外にタッチパネル式もありますね)。
おばあちゃんは、なにやらブツブツと言っていたが、私がリアクションすると長くなりそうなので、そっとタッチパネルに触り、そのままスマホを見ながら下を向いていた。
どうなんだろうか。
私が生まれた頃の後期高齢者ならわからないが、2022年、令和、さすがに「押しボタン式信号」を知らない世代はいないのではないか。
現在100歳の方であっても、おおよそ中年と呼ばれる時期に、高度成長期、バブル経済期を過ごしていると思うので、奇跡的に押しボタン式信号に遭遇することのない人生だった、ということでもない限り、知らない、ということはないと思う。
ちなみに、押しボタン式信号は、昭和9年に誕生したそうだ。戦前である。
ただ、万が一、押しボタン式信号のない所で生まれ育ち、最近、引っ越してこられた、もしくは遊びにこられた、というのであれば、もしかしたら、もしかするのかもしれない。
レアケースはとりあえず置いておくが、ということは、おばあちゃんも、かつては知っていた、ということになる。けど、今は知らない。つまり、忘れてしまっている、ということだ。
そうであれば、これは極端な世間知らずとか常識知らずとは話が別で、何か真剣に対策を考えねばならないのではないか。
たまに見かける、老人の「無茶な道路横断」「信号無視」というのも、同じ理由かも知れない。
車がビュンビュン行き交う4車線道路などを渡っているのを見かけることがある。
恐怖という感情も、忘れてしまっているのかもしれない。
今回見かけたおばあちゃんは大人しく待っていたけれど、逆に、ほっといたら夜になっても待っていそうでもあった。
かといって、歩道橋や地下道となると、足腰への負担が大きく、誰でも使用できるわけではなくなる。
センサー式信号、いわゆる感応式というのは、車にはある。停止線の上にセンサーがあって、車が停車すると感知して信号が変わるタイプだ。
何か、歩行者に対しても、なんらかのセンサー式を用意しないと、一日中、信号が変わるのを待ちぼうけするおばあちゃんが増えてしまうんじゃないかと、そんな心配をしてみた。