「これから行くお客さんのとこ、道わかる?」
「はい」
「もう何度も行っているところだしね。じゃぁ、運転は任せるよ。時間に余裕はあるから、よろしく」
運転を新人に任せ、私は別件で会社へ連絡を入れていた。
おや、私が教えたルートを外れたぞ?このまま直進は遠回りになるが…まぁ、時間はある。自分で道を調べたかも知れないし、様子を見ておこう。
私の電話が終わってもなお、車は直進を続ける。
このぶんだと、かなりの遠回りになる。時間に問題はないけれど、さすがに「調べた結果のルート」ではなさそうだ。
「あの」
「ん?どうした?」
「いつまで真っすぐ行けばいいんですか?」
「え?」
「曲がるところを言ってください」
「いや、僕が教えたルートであれば、とっくに通り過ぎてるよ」
「え」
「え、はこっちのセリフだよ。道わかるって言ってなかった?」
「えぇ、まぁ」
「だから、じゃぁ任せるって言ったよね?」
「えぇ、まぁ」
「なんで指示を待つの?」
「曲がっていいのかわからなかったんで」
「君が次のお客さんへの道がわかっていて、だから運転を任せるって僕が言ったってとこまではわかる?」
「えぇ」
「じゃぁ、なんで曲がっていいかどうかわからなくなるの?曲がらないと、到着しないよね?」
「そうですね」
「本当に道、わかってるの?」
「たぶん」
「いやさ、わからないならわからないでいいんだよ。なんでわからないのにわかるって言ったの?」
「…」
「とりあえず、次を右に曲がって。もう一度右折するから、右車線に入っておいてね」
「はい」
「ねぇ、右車線に入ってくれって言ったよね?」
「はい」
「なんで一番左車線に入って、路駐に引っかかって止まってんのよ」
「このあと入ろうと思って」
「せめて真ん中じゃね?一番左から一番右にわざわざ行くの?」
「路駐は想定していませんでした」
「いや、そうじゃなくてさ」
笑いごとではない。こういう性格というか思考回路というのは、客との関係の中でも出てくる。
わからないことをわかる、と言ったのは重大で、改められるならよいが、おそらく、難しいだろう。
人の話に合わせて返事をしておいて、聞いていないのも問題だ。相手が客だったら、まずクレームだ。
これは、所長には報告しておかないといけないだろう。仕事を任せるには、リスクがある。
そんな感じの毎日を送っております。