すごい混雑しているバスの中で、隣の女性がスマホを手に持ち、何かを考えながら入力をしている。
イマドキそんな景色は当たり前で、特筆するようなことではないのだが、バスが揺れ、立っている乗客のみんながバランスを崩した時、画面が見えてしまった。
それは、どうやら休みの連絡をするためのフォームで、それも事前の有給休暇届などではなく、突発的な休みを連絡するためのもののようだ。
へぇ、色々とシステム化しているんだなぁ、と思うとともに、電話しなくていいなら、みんなバンバン休むんじゃないかしら、とか、そんなことを瞬間的に考えたが、選択された理由は体調不良、入力中の文字は、今日も、となっていた。
つまり、この方は昨日も休んだ、ということだろう。
人には事情があり、悩みがあり、優先すべきことがある。
だから、休むことについてどうこう言うわけではないのだが。
満員のバスに乗っていて、この連絡をしている、ということは、おそらく、家を出たときは仕事に向かうつもりだったのだろう。
満員のバスで嫌気がさしたのか。
密集が精神的につらくなったのか。
その人は初めて見かける人だったので、普段は違う通勤経路、または時間帯なのかもしれない。
突発的な欠勤連絡フォームのおかげで、この人も気軽に欠勤することが出来てよかった、と言ってよいのかどうか。
さすがに今はやらないものの、自分もそういう「ケ」がある。
瞬間的に、発作的に、逃げる、というか。
体調不良、と、堂々と書けるほどの身体的な症状はなく、強いて言えば心の体調不良である。
だからわかる、と言い切るのはおこがましいが、何か対策をしないと、このまま出勤できず退職することになるんじゃないか、と思う。
ちゃんと届けを出していても、おそらく十分に罪悪感は発生しているだろうし、会社の人たち怒っているだろうなぁ、という、自分の一方的な妄想の中で、もはや会社に向かうには一大決心が必要だろう。
その方は、私よりやや年齢が上だと思われるが、このような問題は、やはりきっかけがないと解決できないことも多いのだろうと思う。
しかも、完全な解決というのはおそらく難しく、どちらかというと、症状を抑え込む、という表現の方が正しくて、私自身も、いつまたそのような心理に襲われるかもしれない、という怖さは常にあり、そんな時のためにお金は貯めたいのだが、全然貯まっていないので困っている。
わざわざ満員のバスに乗り、ターミナル駅まで行ったのに、また、Uターンして自宅へ向かうバスに乗る。
朝の通勤時間帯、住宅街に向かうバスはさっきのバスとは全然違ってガラガラに空いているだろう。
朝のすがすがしい青空と、空いた車内を見ながら、あぁまたやってしまった、と後悔をする。
そこまでは見ていないが、その心境を想像すると、どこかソワソワしてしまい、居心地が悪くなる。