以前、都内の営業所で私の下にいた契約社員から連絡があった。
私が異動になってからは連絡をとっていなかったが、特に内容があるものではない、挨拶程度の電話だと本人は言っていた。
契約社員は現地採用なので、基本、異動はないのだが、彼は家庭都合などにより、営業所を転々としていた。
そもそも私の下に来たのも、転居による異動で、関西圏から異動してきた。
その後、さらに北上して関東最北端の営業所に異動し、今年度からはその隣県の営業所にいるそうだ。
血の気の多いところもあり、人間関係構築が下手くそだったので、そういう事情もあるらしい。
そんな中でも、私には世話になったから、と、わざわざ、近況報告の電話をくれるのは、嬉しくないと言えば嘘になる。
直接的な関わりがなくなり、かえって相談事というか、彼の今の悩みや考えていることなんかもチラッと漏らしたりして、彼の本性というか、彼の概要がかえって見えやすくなった。
彼は、金持ちであった。
もともとの出身地に不動産を持っており、そちらの収入が別途ある。なので、異動を繰り返してまでこの仕事に執着する必要もないのだが、それでも、彼はこの仕事を辞めるつもりはないのだと言う。
で、それで溜まったお金で、何かやるか、と考えているとのことで、副業で店でもやるのかな、とか推測したのだが、都心の一等地のマンションだかビルだかを、一棟買いする、と言い出した。
いやぁ、お金持ちのスケールが違った。
もとの不動産、そんなに上がりがいいのか、と言うのもビックリだが、何食わぬ顔で随分と資産家ではないか。
うちの会社で契約社員として中途採用の場合、言葉は悪いが「食い詰め者」であることがあり、けして高くはない給料で働いているので、お金持ちには無縁の会社だ。
配偶者が高収入で、それなりに裕福、という人もいないわけじゃないが、都心一等地のビルをまるごと買える規模の人は、さすがにいない。
慕ってくれているのは嬉しいが、その規模の話を、私のようなその日暮らしが聞くべきじゃぁないだろう。
あまり心の強い人ではないので、とにかく、博打のような投資の仕方はストレスがかかるし、よく考えたほうが、というのが精一杯だった。
私なら、一棟買いしてそちらが軌道に乗ったら、さっさと仕事は辞めてしまうと思うが、彼は、定年まで勤め上げるつもりのようだ。
わざわざ、せちがらい中小企業に飛び込んで、くだらないことで心をすり減らしながらも、辞めずに働く。莫大な資産があるのに。
人って、様々だなぁ、と、改めて思った。