社会に出ると、ボロボロに傷ついてしまい、生きてゆくことすら困難になるかもしれない。
聞いた話から私が勝手にそのように想像したその人は、私より年下で、通学していれば、高校生だったかと思う。私がまだ20代前半だった頃の話だ。
会ったことはない。
その当時、私が知り合ったのは、その人を音楽で施術する人というかセラピストというか(どう表現してよいのかわからない)で、いわゆる出会いサイトに近い、ネット掲示板だった。
きっかけは覚えていないし、なんてことはないメールのやり取りであったのだが、ある日、その高校生の作った詩に、曲をつけてくれないか、という話があった。
たしか、そのセラピストさんは音大を出ている程の方で、なぜわざわざ私に頼んだのかはわからない。
ともかく、やってみよう、ということにはなったのだが、もとが詩であり、歌詞を狙ったものではない。
五七五みたいに、もとからテンポのよい形であればよいが、自由詩というか、とにかく言葉が出てくるままに紡がれた、という感じであった。
今となってはDTMのデータも残っておらず、もはやプレーヤーを確保しないと聴くに聴けない、懐かしのMDのどれかに、作りかけが入っていたような気がする。
詩についても、部分的にしか思い出せないのだが、メロディだけは思い出せる。それだけ、試みが自分の中では特殊で、印象的だったのだろう。
一度、その高校生からお手紙を貰った。
セラピストさんは、私の曲に詩を載せて、実際に歌ったようだった。
ただ、返事は書いていない。
その人の中で、私という存在がどんどん大きくなっているようで、反応するのはよくないとかで。まぁセラピストさんを介してなので、そこらへんは上手くかわしてくれていたのだろう。
だから、会ってもいない。
当然、歌声も知らない。
セラピストさんともその後は疎遠になり、今では音信不通なので、そのまま思い出としてしまってある。
しかし、ふとした時にこの曲を思い出すし、そういう時はだいたい都会の中で、高台に登った見晴らしのよい場所で、心地よい風を浴びた時だ。
その人は、今、どんな暮らしをしているだろう。
詩のタイトルは、心の季節、だった。