インフルエンザワクチン接種時間の小児科。
待合室のソファからキッズスペースまで、わちゃわちゃと、そしてコロコロと幼児が遊んでいる。
そんな中に、双子かな、と思われる男の子2人が、アンパンマンのおもちゃで全力遊んでいる時に、順番がまわってきた。
看護師さんとお母さんにそれぞれ抱えられ、足早に診察室へ。
おそらく2人は、何のためにここにいるのか、これから何をするのか、理解していないであろう、屈託のない笑顔のまま。
診察室の扉がかすかな音と共にしまり、静寂が待合室を覆う。今しがた2人がすぐ横のキッズスペースで遊んでいただけに、他の子どもが遊んでいても、その静けさは静寂と呼んでよいほどだ。
およそ30秒ほどその静寂が漂った後、最初の
「びえ~」
あぁやはり。いきなりチクッとされて、そりゃぁ泣くだろう。わかっていても泣く年頃なのだ。不意打ちされたら、より大きな泣き声で反抗せねばなるまい。
びえ~が続く中、さらに15秒ほどたった頃、半音、いや一音ほど高めの
「びえ~」
双子のゴスペル。
フォルテシモ。
待合室にいる全ての大人達が、だよね~、と、目を合わせないながらも思いを一致させた頃、まるで肩にかつがれるようにして、入っていった順番のまま、診察室から出てきた。
看護師さんとお母さんが、2人をもといた場所に元の向きでおろし、もともと持っていたおもちゃを握らせた時には、彼らはもう、診察室に入る前の屈託のない笑顔にもどっていた。
それどころか、アンパンマーン!バイキンマーン!Yeahhhhh!ぐらいのテンションに戻っていた。
すごいなぁ、子どもって。
これが大人だったら、顔をしかめながら打たれた肩を抱えつつ、なぜか関係ない足を引きずりながら戻ってくる。
ソファにどかっと座るなり、ヘタクソだの今年のは特に痛いだのといった文句を、聞こえるか聞こえないぐらいの小声で囁きつつ、足を投げ出しぎみに、なぜかやさぐれる。
そして、呼ばれたならちょいワル風に立ち上り、もはや足は引きずらずに去っていくだろう。
あの双子も、大人になったら、そんなやさぐれになってしまうのだと思うと、余計に今が愛おしいではないか。
お会計はスムーズで、さほど遊びもしないうちに今度はクリニック入口に抱えられていき(あ、お父さんもいたんすねぇ)、黄色くて耳のついた全身モフモフを着せられる。
プーさん2匹となった双子はベビーカーに搭乗して去っていったのだった。